アヴァロン

世界に誇れる日本発のSF映画


 押井守監督の最新作。実写。

 東欧っぽい古い石畳の街を戦車が走り戦闘ヘリが飛ぶ。最初見た時には「これってCG合成だろ?すげえリアルだな!!」と思ったが、実際にポーランド軍とワルシャワ市の協力で撮影したのだそうだ。どうりでリアルな訳だよ。日本人の俳優はひとりも出てこない。セリフも全部ポーランド語。東欧にありそうなちょっと寒々しい石造りの街の風景も実に素晴らしい味を出している。頭から尻尾まで、全くもって日本映画らしくない。ヨーロッパ映画のテイスト。(ポーランドの映画スタッフが撮ったのだから当然と言えば当然か)
 全編にわたりCGで加工が施されているのだが、まんべんなく特殊効果で映像を改造しているため、見ている側の頭の中がそういう映像に慣れてしまい、夢の中のような、リアルなようなリアルでないような不思議な世界を演出する事に成功している。さすがに上手い。

 また、向こうの俳優を使っているのでキャラクターの迫力がまるで違う。ほら、SF物を日本人の俳優がやると、いくら気張っても、いや、気張れば気張るほど嘘臭くなっちゃう事が多いでしょ? 向こうの俳優は存在感が実にリアル。衣装や背景も含めて実にそれっぽい雰囲気が出ている。そして音楽も凄い。音楽は押井作品の定番とも言える川井憲次氏だが、重厚な楽曲に圧倒される。実に印象に残る音楽だ。

 これまでの押井監督の作品では旧約聖書に関係したネタがちりばめられる事が多かったが、今回は聖書ネタは無く、アーサー王伝説がキーになっている。「アヴァロン」とはアーサー王伝説に登場する島の名前で、「九人の女王」によって支配され、英雄の魂が眠る所だという。なお、映画の中では九人の女王ではなく「九姉妹」と呼ばれていた。

【ストーリー】
 「アヴァロン」とは、コンピューターによる仮想空間の中で行う多人数同時参加型の戦闘ゲームだ。主人公はそのゲームの中で稼ぐベテランプレーヤー。(パチンコみたいに、勝つと現金になるらしい)
 ゲームの中の世界で存在が消えてしまう(ロストする)と、現実世界での本人は廃人になってしまうという危険なゲームで、主人公の仲間の中にもロストで廃人になった者がいる。

 ある日、最高難易度「クラスA」よりも難しい、隠しステージ「クラスSA」というフィールドが存在するらしいという噂を耳にした主人公。さらに、「クラスSAに行って戻ってきた者はいない」「クラスSAにはロストした者の魂だけがいるらしい」という話を聞き、どうしてもクラスSAに挑戦したくなる主人公。

 困難を乗り越えてクラスSAに突入する事に成功した主人公がそこで見たものは、現実以上に現実的な世界、「クラス・リアル」だった・・・。

【感想】
 押井監督の映画は一度見ただけでは意味がよく解らない物が多い。超難解作品「天使のたまご」は言うに及ばず、「赤い眼鏡」「トーキングヘッド」「ケルベロス」なんかも一度見ただけでは意味がよく解らなかった人が多かったはず。「パトレイバー2」や「甲殻機動隊」も、解り易いとは言えなかった。でも、解らないながらも何か気になる、妙に興味をそそられるという物であったのも事実だったはず。

 この「アヴァロン」もそういう映画だ。主人公が飼っていた犬はどうして消えたのか? どうしてクラス・リアルにその犬がいたのか? クラス・リアルで出会った、ロストした友人が語った言葉の意味は? 最後の場面の意味は? ・・・などなど、一度見ただけではよく解らない事象は多い。が、非常に興味をそそられ何度も見返したくなる。スルメのような映画。

 ハリウッドの大作SF映画にもひけを取らない圧倒的な映像内容。これだけの映画作品が日本の監督で作られた事。そしてその監督がアニメ出身の監督だという事を誇りに思う。もう「マトリックス」なんて目じゃないぜ!(^^; (映画「マトリックス」は押井監督のアニメ「甲殻機動隊」に影響されたと言われている。「アヴァロン」は押井監督の「マトリックス」に対するお返しのようにも思われる)

【ゲームの中に没入するという事について】
 現代のPS2などによるリアルな映像のゲームでなくても、ファミコンのドラクエ2くらいの物でも、いやもっと以前のウィザードリィのような、荒い絵と文章だけのゲームですら、熱中すると意識がゲームの中にのめり込んでしまい、その結果「ナチュラル・ハイ」ならぬ「ナチュラル・バーチャルリアリティ」を体験する事がある。実際体験したゲーム愛好家も多い事だろう。私もそうやってのめり込んだ一人だ。だから「ヴァーチャルリアリティ」とか「仮想現実」とかの言葉が使われるようになる前からヴァーチャルリアリティの概念は身をもって知っていた。(1988年か89年だったと思うが、職場で「次世代の研究テーマになりそうな物を挙げてみろ」と言われて、ヴァーチャルリアリティを提案しようと思ったのだが、当時はまだそういう言葉は知られていなかったし私も知らなかったので、説明するのに苦労した覚えがある。
 押井監督もウルティマやウィザードリィなどのRPGに熱中し、毎日毎日サルのようにやり続けた事があったという。そういう体験が「アヴァロン」の基になっているのは間違いない。


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